
3月9日東京四ッ谷の紀尾井ホールで開催された「斎藤アンジュ玉藻 イヴ・アンリデュオリサイタル」友人のパーカッショニストからご招待戴き出かけた。
紀尾井ホールに入ると…ピアノが非常に短い!あれれ?という感じ。プログラムなどを見ていると本日使用のピアノは持ち込み。で、フランス製のプレイエル P-190。斎藤さんの使用楽器(ヴァイオリン)についてはコメント無し。
斎藤アンジュ玉藻さんは今回が正式日本デビューだそうで非常にエネルギッシュな演奏を披露していた。日本人には稀なボウイング(弓使い)のたくましさ。今後どう成長していくのかと思わせるヴァイオリニストだった。
しかしながら今回の演奏で特筆すべき、驚くべきはやはり世界的なピアニスト、イヴ・アンリ氏のその存在感だった。そしてその使用ピアノ、プレイエルP-190
P-190が示すとおり奥行きが190センチだからフルコンサート・サイズなどの270センチの奥行きからすれば本当にステージではちんまりして見える。
どうなるのか、と聞いていると、今まで聞いたことのないような美しい音楽空間…もちろんピアノの低弦が短いのでここぞ、という時にずし〜〜ん、という響きが足りない。でも十分美しいのだ。
実はこのP-190。私は一週間ほど前に、神戸のユーロピアノショールームにて、試弾していた。大ホール、小ホール、そしてショールーム併せて14台試弾した内、最もバランスの良いピアノで驚いたのが、このP-190だったのでさらに感慨深くこの演奏会を聞いた。
紀尾井ホールにお出かけになった方ならご存じだろうけれど、紀尾井ホールは非常に残響が多くて有名なホール。私も何度もあのステージでピアノを演奏しているが、音がお風呂場のように残るので、いつもペダルを踏みすぎないよう、何度も浅く踏み換えるのに苦労する。それでも、音が混ざって濁りあい何を弾いているか分からなくなりがちな特徴を持ったホールなのである。
が、この日は全く違っていた…低音の響きはやや薄かったものの、会場に余分な残響が残らず、音が柔らかく立ち上り、その響きに包まれて斎藤アンジュ玉藻さんのヴァイオリンが美しく響いていて、その典雅な時間は贅沢そのものだった。
ご招待下さったのは日本を代表するパーカッショニスト、草刈とも子さん。テレビをつければ必ずや彼女のマリンバやティンパニーを皆さん聞いているはず、というぐらいの活躍をしている彼女であり、業界でも耳が良いので有名な彼女と二人、曲が終わるごとに顔を合わせるほど、感激してしまって…。お互いに「この紀尾井ホールで、こんなに残響がうるさくなかった演奏会ってなかったわね」という感想が一致していた。
このことが何を意味するのか…
それは、この日の演奏会ではイヴ・アンリ氏の耳の良さと、感性のバランスの良さ、そして楽器がプレイエル、という上品な音を出す名器だった事、これらすべてが集約された結果の音響空間が提供された、と言える。
この日は斎藤さんのソロもイヴアンリ氏のソロも、そしてデュエットもあった。プログラムもバッハからラヴェル、ショパンそしてベートーヴェンのクロイツェルソナタで締められ、時代や作風も多彩だったけれど、あのプレイエルP-190は、イヴ・アンリ氏がショパンを弾くとショパンの音色になり、ベートーヴェンのクロイツェルの時にはまたまた骨格のがっしりとしたベートーヴェンの音色にピアノの音色が変身するのだった。
弾き手も楽器も超一流だとこういう素晴らしい演奏になるのだというのが驚きでもあった。
帰り道、彼女とお友達とおいしい小料理屋に寄ってピアノとイヴ・アンリ氏の話題で持ちきりになった。「あんなに美しい音色のピアノがあるのねぇ…初めて聞きました、ステキ。」「イヴ・アンリみたいな人に伴奏していただけるだけでソリストは一流のレッスンを受けられるようなものよね、どんどん成長できるものねぇ〜〜…」と、等々。斎藤さんのヴァイオリン演奏環境をうらやむためいきもしきり…
できる事ならあの日、プレイエルのセミ・コンサートぐらいの大きさのピアノであの演奏会を聞きたかったな…というのが正直なところ。あれだけ美しい音楽空間を体験し、鳥肌が止まらなかったくせに、人間の欲はとどまらないものだ、と我ながら呆れて帰宅。
幸せな、幸せな一日に感謝して眠りにつく。
ユーロピアノ関西ショールームにての試弾のルポはまた次回にでも。
斎藤アンジュ玉藻
Yves Henry
Yves Henryの演奏が聴けます↓(さらにぴったりなファイルを検索中)
http://ml.naxos.jp/album/TUDOR7065
ラベル:斎藤アンジュ玉藻 Yeves Henry