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2015年12月22日

「Secret Room Vol.2 −布と箱」工藤あかね at トーキョーワンダーサイト本郷

akaneK.jpg アーティスト 工藤あかね
タイトルを日本語に訳すと〈秘密の部屋 その二 – 布と箱〉ー 非常に濃密で想像力を掻き立てられるタイトル。

工藤あかね氏はソプラノ歌手にとどまらず、ダンサーでありギタリストでもあるマルチパフォーマー。
今回11月27日-28日の二日にわたり開催された公演のプログラムは

・ジョン・ケージ:ソネクス 2(1985)
・ジョン・ケージ:花(1950)
・カール・ハインツ・シュトックハウゼン:一週間の7つの歌(1986)
・湯浅譲二:R・D・レインからの2篇(2005)

     「私は夢をみた」 「愛は似る降りくる雪の…」
・ジョン・ケージ:4’33”
・松平頼暁:Trio for One Player
(2014 初演)

工藤あかねの声域は広く、特に低音域に特徴があり、一般的なソプラノでは安定しづらい音域にも非常に響きの力強さがある。ヨーロッパ的なソプラノの響きとも違う、あまりグラマラスになり過ぎない声、それなのに中心に猛烈に太い芯を持った声質を持っていて、それが一貫して高音まで揃った濃い密度で響く。現代の歌を扱った作品の新しい表現力としては非常に恵まれた資質を持っており、実際に縦横無尽に広がりを見せていた。

akane02.jpg
タイトルから想像される通りにステージの中央に長方形の座れる白い箱がありスツールのように中から色々取り出せるしくみ。ギターは上手奥に置かれており、中央の箱と良い意味でステージ上での緊張の糸を引っ張り合う配置になっていた。
上手がそういうテンションで空間が占領されているので、下手に何かを期待させる空間が作り出されていた。さらにシーツの何倍もあるような真っ白な布を使って白いドレスで音と歌とダンスとギターを織り交ぜての舞台表現を披露した。
舞台の床の肌色に近いライトブラウンと三種類の、布の白、箱の白、ドレスの白。非常にシンプルなこの舞台は逆に観客に想像力を要求して来る事に公演の途中から気づき始めた。
これは鑑賞ではなくて、実は観客が参加できる形のパフォーマンス。それは想像力という形で参加できるわけだけれども。
白=白装束というのは生まれるときの産着の色でもあり死に装束の白でもあり、あ・うんとも繋がり、エンジェルの白でもあり下着の艶かしい白でもあり、両極端な意味を持つのが白。生と死、清純さと妖艶さ、無と有、そして白い布にはフラットとドレープ、といった3Dでの立体感が加わり、帽子、衣服、寝床、地面、赤ん坊等…ダンスを伴って想像はさらに膨らむ。身にまとったときのその白い布は時にはエジプトのあるいはインドの、そしてアフリカの…そして日本の衣装に見えたりもした。
彼女のギターは予想を超えて素晴らしく、弦が一音一音弧を描くように良く鳴って説得力を持ってこちらに訴えて来る。
akane03.jpg Photo@Naoshi Kukiyama

プログラム中、ジョン・ケージ作品が3作取り上げられたが、その中で最も作品に命を吹き込んでいたのは有名な〈4’33”〉であった。何度も再演を見て聞いてきたジョン・ケージのこの作品がこの日、工藤あかねというパフォーマーを通して最も饒舌なイメージとなり、退屈や単調とは無縁の新しいスタイルの〈4’33”〉に仕上がっていた。
シュトックハウゼンの超絶技巧が網羅された〈一週間の7つの歌〉もその細かな指示と制約があるのが逆にパズルのような面白さになって動く図鑑のように興味深かった。
湯浅譲二氏の作品〈R・D・レインからの2篇〉は非常に官能的であり、第一声から非常に多彩で細やかな表現で書かれており、モダンの中に古風な雅な懐かしい人間的息づかいが抑制されて潜んで聞こえた。クールに清潔に表現をつづける工藤あかねのスタンスとは作品が非常に対極にあるのが新鮮で、逆にこちらはその質感の違いに酔うがごとく、耽溺してしまうような不思議な魅力があった。例えて言うなら天使と妖女の間を行き来するような天国と地獄の間を行き来するような、煩悩との闘いのような…。
プログラム最後の松平頼暁氏の〈Trio for One Player〉タイトルは、歌手+ダンサー+ギタリストのための作品を一人のパフォーマーのために書いた、という風に解釈できた。素数をメインにした数字の羅列発音から始まる作品は湯浅作品とは対照的に決して予断を許さない、というほど人工的に覚醒させられ続け、テンションを掛けられる。あの前後に関連を持たない数字の羅列を暗譜で表現しきった工藤の表現力には驚かされる。そしてギターを演奏しながら全く別の表現をパラレルに要求する作品であり、さらには時間軸を刻むダンスがある…。
パフォーマー泣かせとも言えるこの難曲は、この日最もパフォーマーを輝かせていた。
(工藤あかね「Secret Room Vol.2−布と箱」11月27日 於トーキョーワンダーサイト本郷)

【工藤あかね Profile】
東京藝術大学声楽科卒業。2011年にはリサイタル「Secret Room」を開催、シュトックハウゼン「ティアクライス」に自身で振付し、同作に踊るソプラノ版という新たな解釈を拓いた。2015年サントリー芸術財団「サマーフェスティバル」出演。近年はピアノの藤田朗子とデュオ「タマユラ」を結成し、これまでにサティ「ソクラテス」、シェーンベルク「架空庭園の書」、ヴィエルヌ「憂鬱と絶望」などを手がけている。

kaorinIcon.jpg by Kaorin


posted by カオリン at 00:15| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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