内容もろくにわからないのに、この3月、ブリュッセルの映画館を
通り過ぎる時に見た看板
「After the Wedding」が忘れられず、
どうしてもどうしても見たくて…
帰国後にアメリカで上映が完了した情報は得たので
あとはDVD発売をずぅっと待った。そして…
やっとアメリカのアマゾンから取り寄せたDVDが届いた。
この作品に惹かれた理由:
ひとつは大好きな
マッツ・ミケルセンの主演作品だった事。
それと、最近注目している北欧映画の一つでもあり、
さらにアカデミーノミネート作品でもあったから。
こういうシブい作品はなかなかエンタメ中心の日本では
映画会社が買い付けてくれない…
それにしても、すごく考えさせられる作品だった。
ヤコブ(マッツ・ミケルセン)はインドで孤児院を運営するデンマーク人で
年に半分インドに住み、半分はコペンハーゲンンに暮らす生活。
もちろん孤児院の運営は多額の寄付なしには成立しない。
そんなところに多額の寄付金の話が舞い込み、ヤコブは
その契約をするためにコペンハーゲンに戻る。
そこで偶然にも出会うのは20年も前に別れた恋人エレーヌ。
そしてそのエレーヌの夫が億万長者であり、今回の寄付金のオーナー
であった事をあとで知る。
もちろん三人ともそんな事は知らず、すべては偶然の引き合わせであった。
そこで知った事は衝撃的…かつての恋人エレーヌははヤコブの娘を
身ごもったままその億万長者ヨーガンの理解を得て結婚したのである。
ヤコブのコペンハーゲン滞在中に催されたヨーガンとエレーヌの娘、
アンナの結婚式に彼は何も知らずに招待されて出席をし、
そこで初めてその出資者ヨーガンの娘が実は自分の実の娘と知る。
それはヨーガンにも驚きであり、ヤコブが父親と知り
ショックを隠せない。
ヤコブは元恋人エレーヌに怒りをぶつける…
「何故妊娠していると言わずに別れたのか…」
「自分はこの子の父親だと名乗る権利がある」と…
娘アンナは養父ヨーガンに感謝しながらも実父ヤコブとの出会いに
感銘を受けている。
エレーヌはヤコブを拒否し続ける…原因は…
ヤコブがこの孤児院を運営するに至るまでは
ヤコブに相当放浪癖があり、女性問題もありで、エレーヌとは
いさかいも耐えなくて、彼女にとってはヤコブがここまでに
変わったとはいまだ信じられない…
一方で出資者のヨーガンは重病で、余命いくばくも無い事を知り、
嫁いだアンナのほかに実の子供=双子がおり、自分の死後の事を思うと
心は千路に乱れる。
ひとつのことを紐解けば山ほどの知らねばならない情報があり、
それが複雑にからみついているのをほどくのに
この登場人物は非常に時間をかけなければならなくなってくる。
人間の心はひとたび閉じたら溶かすのには時間とケアが必要で
それを、それぞれがしていく内にこのヤコブを囲む関係者に
見えないつながり=思いやりのようなシンパシーが生まれてくる。
ヨーガンにしてみれば妻の昔の恋人とその二人の間の子供アンナとの
つながり…そこから生まれる不思議な感情=
「ヤコブにエレーヌとアンナの将来を託そう、そしてアンナの下に
生まれた双子のケアもして欲しい…」
そこには嫉妬や私欲は何も無い…
ここが非常にデンマーク作品的であり、非常に繊細でヒューマンな
仕上がりになっている。
「愛」と一言に言うけれど…
そこにはさまざまな種類の、さまざまな環境下の
「愛」が存在する事を知る…そしてそれらは時々
混ざり合いながら存在する事もある。
それが不条理な結果になったとしても
人が善悪を決められないものであったりする…
それからもう一つ、ここで描かれているものは
大事な一つを得る時に、やはり大切な何かを
手放さねばならない宿命を背負う事は案外多い…という事。
監督のスザンネ・ビエールは2002年「しあわせな孤独」で
デンマークアカデミー賞最優秀作品賞に輝いた。
デンマーク国民の8人に一人が涙した感動作といわれる。
マッツ・ミケルセンは一見、猛烈なハンサムでもなく
時々貧相に見えたり、まじめに見えたり、ずるく見えたりと
表情が多彩。
でもひとたび作品で演技しだすとその目や体中の動きが
素晴らしく饒舌で、やはり名優だと思う。
この「After the Wedding」が日本にまだ入る計画がなさそうでとても残念。
ここで作品の紹介が少しだけムービーで見られます。↓
Apple Trailer After the Wedding