W.HOFFMANN T-161(2.550.000円)3/17にユーロピアノの八王子センターにおいて
昨年日本でデビューしたW.ホフマンのピアノを使用しての
レクチャーと内藤晃さんの演奏が聴けてさらに試弾もできる、
という事で出かけてきた。
今までユーロピアノのピアノは数々試弾させていただいて
このブログでも度々紹介してきている。
W.ホフマンについてはアップライトしか弾いた事が無い。
さらにそのW.ホフマンのアップライトというのは
コンセプトはプロ向けというよりもアマチュアで
国産よりももっと音楽を楽しく感じて弾きたい、という方向けの
楽器という風に自分の中では位置づけている。
そのW.ホフマンから素晴らしいグランドピアノが出ました、
というお知らせ。価格を見ると非常に手頃で国産と大差ない。
先入観はいけないな、とは思いつつもお目当てはどちらかと言えば
内藤晃さんのピアノが目の前で聞ける、と言う魅力も大きかったし、
でもとにかく聞いて、触ってみようと思ったわけ。
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お客層は関係筋の方が多かったようにも思う。
当日は国産のピアノも隣にあり、
同じ曲が違うピアノで味わって聞く事ができた。
通常メインメーカーのセカンドラインのピアノは別会社に作らせて経費を削減している事が多い。が、このHOFFMANNは本当にベヒシュタインのスタッフが設計作製している、というのがメーカーの売りなのだ。つまり楽器の細部まで人任せにしていないよ、という事。
なるほど…。
価格帯でいうとベヒシュタインのアカデミーシリーズのA160が435万円で、それの下のライン、という位置づけになっている。A160はそれはそれは何台も試弾した経験がある。
さて、そのW.ホフマンの音を聞くとそれは一目瞭然で驚いた。
当日演奏された楽器はT177(176センチの長さ)。
国産はそれと同等のものが使用された。
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聞いたところでの特徴をここに:・全体に丸みを帯びた柔らかな音の立ち上がり
・金属系の鳴りは非常に少ない。
・中音域の豊かさはとても良くさらに音の独立性が非常に良い。
・空気を含んだ感じの音色も特徴(=音が鳴ってから良く広がる)
・中〜高音域はキラめきというよりも厚みがある。
・それに対して低音はパワーは少な目だけれど非常に表情豊か。
内藤晃氏が演奏した曲目で感じたピアノ曲とピアノ自体の相性をココに:バッハ=甘すぎずにまろやかな音色が出せるピアノだ。
べートーヴェン=フォルテの音色が濁らずソリッドさが際だった感じで好感が持てた。
ラヴェル=低音は正直に音が立ち上がってくる感じ。変なクセがない。ppでも音の芯がぼけずに粒立ちが良くクリアだった。
特にラヴェルのような近代の曲になると単なる鍵盤の様子にプラスしてペダリングの特徴も述べなければならないが、このあたりはベヒシュタインの響きと同じで、透明水彩画のような感じで、ペダルを踏んだまま音を重ねても透明なまま上に響きが増えていく、という特徴はそのまま。
ベヒシュタインの方がキラメキが特徴であるのに対し、このW.ホフマンはまろやかさが特徴のように聞こえた。
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内藤晃氏は非常に優れたピアニストでありインテリジェンスの際だったパフォーマーなので大体どういう楽器でも瞬時にクセを聞き抜いてそれの楽器に対応した演奏をする。
なので、そういう意味では国産のピアノを弾く際にも見事にペダリングなどで無意識にカバー修正して演奏してしまうので、そのあたりは判断が難しいものがあったが、それでも違いははっきりしていた。
国産とホフマンのどちらが良い悪いではなく、
HOFFMANNは絵の具の色がたくさんあるパレットのような楽器である。さて、そういう一流のアーティストが弾くのと自分がユーザーとして弾くのではどうなのだろうか…
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弾いたところの感想をここに:・何しろ鍵盤のレスポンスが速くて敏感。
・予想よりもはるかに一つの鍵盤の中に何種類ものスウィートスポットがたくさんあった。
(つまりPP→FFだけじゃない色がたくさん出せると言う意味)
・音が丸い割にはクラシックタッチの物もジャズタッチのものも自由自在だった。
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よくピアノの先生の中には「日頃重い鍵盤で練習した方がよい」と仰る方がかなりいるけれど、私は違う意見である。
重い鍵盤というのは大体レスポンスが遅い。私はこういう楽器は選ぶべきではないと思っている。
先に挙げた先生のおっしゃる事というのは「重い鍵盤で練習すれば指に筋力がついて本番のステージで軽く感じて弾ける」という意味らしいのだが…何やら昭和の努力→必勝=的な感覚を覚える。
重い鍵盤で練習していると力ないユーザーはどうしても音を鳴らしたくて鍵盤に必要以上に指を押しつけて弾くクセがつく。そんなクセでいくら本番のステージに臨んだって良い音は出ない。ピアノは打鍵と書くが実は叩くよりも弾いた後の指の引き上げる早さがテクニックに繋がる。つまり弾き終わった指が速やかに上に引き上げられればどんどん速いパッセージが弾けるようになるのだ。なのにレスポンスの遅いピアノを弾いていたらその指が引き上がる速度が上がるわけはない。押しつける筋力だけが悪いクセとなって残るだけ。そんな練習を20年もして音大を出ても困るユーザーが増えるだけである。もちろんアマチュアにも同じ事が言える。
実際にステージで演奏していて重すぎて困るピアノなんかない。だったら自宅でもステージと同じようなレスポンスの良いピアノで練習すべき。そしてその良いレスポンスの楽器で自分の表現したい色をどんどん探すべきである。そういう練習の中でついた筋力は非常に合理的な筋肉と私は信じて疑わない。練習のための練習、というのが日本人はとても好きだがそれは練習であって演奏ではないので、そこが問題だと思っている。
話が横道に逸れたが、つまりこのW.ホフマンのレスポンスの良さは200〜300万円台で手に入るなら逃す手はない、というお買い得を感じてしまったわけ。
そして弾けば弾いただけピアノと様々な会話ができるのはベヒシュタインと同じ。もちろんベヒシュタインが作ったのだから当たり前と言えば当たり前だけれど。
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日本人はメルセデスのマークを信じ、ヴィトンとコーチのバッグを愛する国民と言われる。本当に良さを知っているユーザーなら別にいいけれど、大半の人がそれ以外になると選ぶ自信がない、というのが実は本当だと思う。人が良いと言ったから、人気があるから…という買い物は愚かしいというのをそろそろ学んでも良いのではないかと思う。
「W.HOFFMAN=ホフマン? 聞いた事ないし、どっかで量産して日本に入れてるんじゃないの?海外のならやはりスタインウェイじゃないと…人にホフマンのピアノ買ったって言ってもねぇ…誰も知らないし…。娘はプロになるかどうかだってわからないんだし…だったらやはりYAMAHAが安心よね」と、いつまでそういう考えでいるのだろうか…。この場合の「安心」って何なのだろうか…。
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プロになるならないは関係なしで、良い音が生活にある事は豊かだと思う。
W.ホフマン・トラディショナルは価格との釣り合いがとれた、と言うよりもむしろ価格を超えるクオリティを備えた素晴らしい楽器だと言える。誰も知らないだろうこのブランドを胸を張って「素晴らしくいい音だから良い楽器だから買ったの」というユーザが出てきたら日本も捨てた物じゃないと思う。
W.ホフマンを見かけたら是非試弾をオススメする。弾くほどに驚きのあるピアノ。
シャイだけれど意外と良くおしゃべりする楽器。
良い意味でのニュートラルなグランドピアノと言える。
敢えてW.ホフマンの弱点を上げるならば…
バリバリに派手な音じゃない所? それと
低音のズッシ〜〜ンっという重量感が足りないところかな。
でもこれはスタインウェイの家庭用でも同じなので…。
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八王子センターの様子最後に…。
レクチャーが行われたのは上の画像のようにステージでもないし会議室でもない、八王子センターは工具の並んだ工房である。
そして非常に冷えてくる中で私は手が冷えて指がかじかみ試弾の時には普段の作品がさらさら弾けなかった。工房というのはそういう所。
別にそれが何だという事はない。
しかしながら、ピアニストとしたらそこでピアノを聴衆の前で弾くのは非常に考える物があるだろうと推測できる。コンディションキープの難しさという意味で。そういう場所でニコニコと色々な作品を見事に弾いて下さった内藤晃氏は素晴らしい御仁だと思った。そして事実こちらはその演奏の素晴らしさに感動した。
500万円でスタインウェイの一番小さいグランドピアノの中古があったとしたら…私は迷わずにこのW.HOFFMANNの方を買う。そして残った資金で海外に演奏会をジャンジャン聞きに行って自分の耳に栄養を与えようと思う。スタインウェイの中古は実際500万円で買ったらそのあとのメンテナンスにさらに費用がかかる。それも耳が相当ないと大変であり、さらにタッグを組む素晴らしい調律師がいないと自分の理想の音に近づくのに時間がかかる。車で言うならジャグアーはセカンドカーにしなさい、たった一台の自動車として乗っているのは惨めだよ、というのと同じ事になる。そんな高額なメンテナンス費用に投資しているウチに時間が過ぎ、音楽を聴く余裕もなく…となるよりもその費用で本物を現地に聞きに行ったら良いと思う。
え?HOFFMANN買うのでめいっぱいでお釣りなんかない?
それはそれは…失礼いたしました(笑)
絶対買って後悔しないと感じたピアノ=W.HOFFMANN・トラディショナル♪
W.HOFFMANN の詳細ユーロピアノOfficial Site